- MIka Osawa
- 6月29日
- 読了時間: 5分
風の丘HALLでのオペラ公演を終えた
今だからお話しできること、オペラ興行をどのように行ってきたのか、なぜ、止めなければならないのか、
私の心のうちを書かせていただきます。
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オペラは、何よりソリストの魅力がすべてです。
だから、お客様からのチケット代はすべてソリストへのギャラに充ててきました。
それが風の丘の揺るぎない流儀でした。
次の公演が打てるかどうかは、「また来たい」と思ってくださるお客様がいるかどうかにかかっています。
その思いを引き出してくれるのは、間違いなく、舞台で輝きを放つソリストたちの存在でした。
とはいえ、風の丘HALLの客席は大変少なく、たとえ満席になったとしても、得られる収入はわずかです。
出演者が増えれば、お一人あたりのギャラがどうしても少なくなってしまう、、
本当はもっとお支払いしたい――
それが本音でしたので、その鬩ぎ合いでのギャラの設定でした。
しかしこの流儀を貫くことが、「継続」を第一に考えた選択でした。
それでも、ソリストの皆さんは不満を言わず、真摯に舞台に立ち続けてくださいました。
素晴らしい舞台を作ってくださいました。
その感謝の気持ちから、毎回の稽古後には、ささやかですが打ち上げを行ってきました。
終電ギリギリまで一緒に笑い合う時間が、私にとって大きな救いと喜びでした。
このケイタリングと、ギャラ以外にかかる経費は宣伝費も含め、
すべて私個人が負担してきました。
どうしても出演者の数を増やさなければならない場合の不足分のギャラや、
満席にならなかった場合のギャランティの不足分も、当然自腹。
常に「満席以外は許されない」という覚悟での、綱渡り、かつ常に赤字の運営でした。
そのうち満席が当たり前だった時代は過去のものとなり、
10年ほど前からは客足が急激に遠のき、上演回数は4回から3回、そして2回へと減らしていかざるを得ませんでした。
厳しい状況の中、支援者の方からのご援助に救われ、その先継続が叶いましたが、
その援助も昨年からは減額。
ギャラの補填が私一人に重くのしかかってくるようになりました。コロナ禍を経てからの小空間での集客は難しく、継続の限界を感じ始めていた中での打撃でした。
それでも、先日の最後の公演では、
ありがたいことに久しぶりに完全満席となり、
ソリストのギャラをチケット収入だけでお支払いできたことに、心から感動しました。「満席であれば、援助がなくても興行は可能」――
そんな希望の光を見ることができた瞬間でもありました。
もし私がもう一人いたら――もっと新しい宣伝手法を取り入れ、継続への道も開けたかもしれません。
けれど今、私はどうしても目を背けられない、もう一つの大切な課題に向き合っています。
それは、「子どもたちが育つ日常の環境」です。
今、子どもたちを取り巻く環境には、深刻な歪みがあります。自己肯定感を失い、失敗を恐れ、本来持っているはずの無限の力を見出せないまま育ってしまう子が増えています。これは、未来の日本にとって、一刻を争う重大な問題です。
しかしこの改善には、時間がかかります。なぜならまず、子どもを取り巻く大人の
意識を変える必要があるからです。特に現場に立つ支援員や教師など、大人たちがまず自分の価値観を見直し、変わっていくことが求められます。けれど、大人の思考を変えるのはとても困難です。
気づき、受け入れ、行動を変えるには、何度も繰り返す経験と根気が要ります。
それでも私は、やらなければならないと感じています。
今この時に、子どもの環境づくりに全力を注がなければ、手遅れになってしまう。
5年前より与えられた、奇跡的な「学童」という環境です。
これは、もちろんこのオペラ舞台の経験から得たものを子ども達へ注ぐことで、子ども達を元気にできると確信したからです。
だからこそ、私はこの課題に、向き合うことを決意しました。
これが、風の丘オペラ公演継続を休止するに至った、理由です。
これを書いたことで、誰に同意をしてもらおうというような気持ちは微塵もありません。
ただ、粛々とここに今の私の気持ちを綴りました。
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最後になりましたが、
25年間、小さなオペラハウスで、
大きな感動を残してくれたオペラ上演にかかわってくださった多くの皆様、
全国から足を運んでくださってお客様に、
感謝の気持ちでいっぱいです。
ありがとうございました。
心から感謝申し上げます。
風の丘の小空間オペラ、
他のどの劇場でも体感できない特別な舞台体験。
映画を見ているような距離感で肉眼で見られる演技、表情、
大迫力の声の魅力に包まれる
まさに客席も参加している「イマーシブオペラ」。
またまた、いつか、オペラを再開する日が来るかもしれません。
その日は、
日本の経済がしっかりと地に足をつけて歩み、
国民が皆、夢と希望あふれ、子どもを潰すことのない社会、そんな社会に。
国民一人一人のしっかりとした理念信念こそが、社会を作り、国を作ると思います。
そんな社会になることを願って、
オペラが長い人類の夢と希望「自由」「愛」「平和」を託したように、
私も、この願いを託して、
オペラの再開を願っていきたいと思います。
任意団体
小空間オペラTRIADE 代表 大澤ミカ